弓削政己「奄美諸島、近代初期の県商社による砂糖独占販売の諸問題」

 弓削政己氏(奄美郷土研究会会員、法政大学沖縄文化研究所国内研究員)が、「奄美諸島の系図焼棄論と守奄美史談』の背景―奄美諸島史把握の基礎的作業―」(『沖縄文化研究』第38号、2012年、法政大学沖縄文化研究所)でいわゆる「系図差出焼棄論」をめぐる再検討をされています。
 この研究は、1949年の昇 曙夢『大奄美史』刊行、1968年の名瀬市誌編纂委員会『名瀬市誌』刊行以後、奄美群島で広く共有されてきた歴史情報の見直しを図り、「誤解の史実」を浮かび上がらせ、新しい史料も加えて再検討を行い、その学説が形成された時代的、社会的背景まで考察を加えたものです。
 この論文の第二弾とでもいうべき弓削氏の論文があるので、ご紹介しておきます。
弓削政己氏が、2013年に発表された「奄美諸島、近代初期の県商社による砂糖独占販売の諸問題-主体形成と時代性を反映した歴史叙述と史観-」です。
 明治時代における砂糖流通と商社独占の問題については、複数の先行研究がありますが、弓削氏も『喜界町誌』『瀬戸内町誌』『大和村誌』の中で継続的に史実の修正を含めながら研究を進めてきました。この論文では、さらに①新しい史料による研究の展開、②沖縄県、宮崎県まで視野を広げて、商社の砂糖独占販売の実態の把握、③この問題に対する奄美群島の市町村誌の記述内容に変化が認められるので、時代性が反映された歴史観の確認等の課題について、考察が進められていきます。②の検討では、これまで奄美群島史ではほとんどふれられたことがない豪商・魚住源蔵という人物が取り上げられ、魚住の活動の把握から、県、豪商、船主、士族等が結びついた商社独占システムの実態が明らかにされていきます。そして、「保護会社」としての「国産会社」の商社の実態が浮かび上がり、そこから「大島商社」の分析へと進んでいきます。
 7章「史実訂正は何を意味するか-奄美諸島民への評価の修正-」、8章「時代を反映した叙述-『奄美史談』から引き継ぐもの-」は、奄美群島史研究で根強く支持されている通説に対して、現代奄美社会における歴史の評価とその意味がまとめられています。今後の研究の方法論的課題を含む基礎的研究の論文です。

弓削政己「奄美諸島、近代初期の県商社による砂糖独占販売の諸問題-主体形成と時代性を反映した歴史叙述と史観-」(外部リンク)
『沖縄文化研究』第39号、2013年、法政大学沖縄文化研究所

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