鹿児島県立奄美図書館が毎年開催している島尾敏雄記念室講演会ですが、今年度の講師は、奄美群島の近世・近代史研究で膨大な研究実績を重ねられている弓削政己さんです。
鹿児島県立奄美図書館島尾敏雄記念室講演会
弓削政己「歴史学・奄美諸島史における島尾敏雄の位置」(外部リンク)
文学者として知られる島尾敏雄の作品を、歴史学者が読むとどうなるのでしょうか。
ご存知の方も多いと思いますが、島尾敏雄は、九州帝国大学法文学部文科東洋史専攻を卒業していて、歴史学の基礎的訓練を受けている作家です。晶文社から観光されている『島尾敏雄全集』全17巻の第16巻・第17巻は、いわゆる「南島エッセイ」と呼ばれる非小説作品群が収録されています。これらのエッセイ群にも、奄美群島や琉球弧(南西諸島)の歴史に関する多数の作品が含まれています。これまで大勢の文学者により作品批評が行われてきましたが、文学的立場の域を超えないものが多く、民俗学者・谷川健一さん(故人)が島尾敏雄が創り出した概念「ヤポネシア」を取り上げてから、新しい日本文化論として注目されるようになりました。
その後、ヤポネシア論をめぐる研究は停滞してしますが、柳原敏昭さん(東北大学大学院文学研究科教授)による「中世日本の北と南」(日本史講座4『中世社会の構造』、2004年、東京大学出版会)で、歴史学者からみた島尾敏雄の仕事の再評価というものが出てきます。この島尾敏雄記念室講演会でも、2013年に高梨 修さん(奄美市立奄美博物館学芸員)が「島尾敏雄の歴史学的視点」という報告をされています(『島の根』第49号、2013年、鹿児島県立奄美図書館編)。
なぜ、今、歴史学者たちは、島尾敏雄にふたたび注目するのか、そのあたりも気になるところです。
日本復帰間もない名瀬の街で暮らした島尾敏雄は、奄美で何をみて、何を感じ、何を考えたのでしょうか。弓削政己さんが視界にとらえた島尾敏雄の世界とはどのようなものなのか、たいへん楽しみですね。そんな島尾敏雄の知られざる姿の一面が浮かび上がる講演会になるのではないかと思います。
「第30回国民文化祭かごしま2015」オープニング日ですが、午後からの講演会ですので、どちらも参加したいという積極的な方もたぶん大丈夫です。文化の秋を大いに楽しみましょう。
【日 時】 平成27年10月31日(土) 14時~15時30分
【場 所】 鹿児島県立奄美図書館
【講 師】 弓削政己さん(奄美市文化財保護審議会会長、沖縄国際大学南島文化研究所特別研究員、法政大学沖縄文化研究所国内研究員等)
【内 容】 ・島尾敏雄のヤポネシアと琉球弧概念と成立過程
・日本史学界と琉球弧論及び奄美諸島内での研究史
・赤坂憲雄の『東西/南北考-いくつもの日本へ』
・島尾敏雄の奄美諸島史理解と未知への態度
・琉球弧の歴史学研究を反映したトカラ認識
・トカラ認識を含めた琉球弧の認識へ
【連 絡 先】 0997-52-0244(鹿児島県立奄美図書館)